【事件の概要】
ホメオパシー団体のネット掲示板に、腎臓病の子どもに処方されている免疫抑制剤を与えず、ホメオパシーのレメディを投与しているという母親からの相談が掲示される。
子どもは酷いむくみや蛋白尿が出ていると記載。
ホメオパシー団体は服薬や医療機関受診を勧めていない。
↓
このままでは子どもに命の危険があるとのことで、ブログ、ツイッターで情報拡散。児童相談所、警察、マスコミ等への通報が行われる。
↓
警察が母親・児童・主治医を特定。児童は無事。母親が症状を大袈裟に書き込んだとのこと。
↓
ホメオパシー団体が掲示板に言い訳掲載。
【経過詳細】
私がこの件を知ったのは、ツイッターで7/15にリツイートされてきたlets_skepticさんのブログからだった。
医療ネグレクトと思われる例があるということで通報した - Skepticism is beautiful
ビタミンKの問題でも話題になったホメオパシー・ジャパン系のロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシーのページで、医療ネグレクトと思われる事例が公開されていた。
ビタミンK2の代わりにホメオパシーのレメディを投与された赤ちゃんが亡くなった件で、助産師が提訴されたために、いま、ホメオパシーに注目が集まっている。
それゆえ見つかったのだと思う。ホメオパシー団体サイトの体験談コーナー(掲示板)。
主訴は腎臓です。2歳で発病し、2年ほど入院し、今は通院しています。10歳になりました。
- 2歳から腎臓病、2年入院歴あり、現在10歳
- 免疫抑制剤を処方されているが現在飲ませていない
- ホメオパシーのレメディを投与するとひどいむくみ、蛋白尿が出現
これは…かなりまずい状態なのではないだろうか。放っておいたら、命に関わるレベルで…。
「医療ネグレクト」…必要な医療を、受けさせない、虐待。病気や怪我の子どもの治療を親が拒否したり放置することで、子どもが死亡したり、障害が残ったりする。
医師の中川剛先生のブログを読んで、私も通報することにした。
【緊急】再びホメオパシーで幼い命が失われようとしています
当該児童は、腎移植後か、自己免疫性腎炎に罹患している可能性が高い。
どちらにしろ、免疫抑制剤の自己判断での中止は、数日中に死の転帰をたどる可能性が高く、速やかな保護が求められる。
児童相談所に通報した人もいたようだが、まず掲示板管理者に情報を開示させ、母親と児童を特定する必要があるため、愛媛県警に通報した。下記の内容をメールしたあと、電話した。
【児童虐待】ホメオパシーによる医療ネグレクト(傷害)と思われる事例
愛媛県警察御中
児童虐待と思われる事例がネットで公開されていますのでご連絡いたします。
腎臓病の10歳の児童が、母親によって薬の投与を中断され、「レメディ」というものを投与されて、病状が悪化しているようです。
母親は「ホメオパシー」という民間療法に関心を持ち、「相談会」というところで相談の上、上記の行動を取っているようです。
子どもの症状悪化を「好転反応」と捉えており、今後も薬を飲ませずホメオパシーでなんとかしようとしています。
上記の経緯はホメオパシー教育機関「ロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシー英国本校」ホームページ内にある体験談コーナーに、母親への回答とともに掲載されています。回答者はホメオパシーによる対処のみ指示し、薬の服用や医療機関受診を勧めていません。
このまま放置すれば、児童がより深刻な病状悪化におちいり、生命の危険もあるのではないかと心配です。
ホームページ上には掲載されていませんが、体験談投稿フォームでは氏名や住所が入力必須となっていますので、サイト運営者は投稿者を特定できる情報を保管しているはずですし、IPアドレスも保管していると思います。
一刻も早く母親と児童を特定し、児童を保護して適切な医療を受けさせてあげてくださるようお願いいたします。
また、母親に薬の服用中断やレメディの投与を勧めた人物や団体についても、きちんと調べて対処していただけますようお願いいたします。
以下、問題のサイトURLとその内容です。
ホメオパシー 体験談紹介
http://www.rah-uk.com/case/wforum.cgi?no=3388&reno=no&oya=3388&mode=msgview&list=new
---以下転載---
(中略)
---転載ここまで---
スクリーンショットも保存してありますので、もし必要でしたら、ご連絡いただければお送りします。
進展がありましたら、公開の可否も含めご連絡いただけますと幸いです。
電話を受けた愛媛県警の人は、「ホメオパシー」という言葉を知らなかったようだ。「一種の民間療法で…」と簡単に説明し、それに傾倒した母親が子どもに処方薬を服用させないために、子どもの体調が悪化し、生命の危険もある状態のようだと話した。
ネット関連の担当者が不在だったのか、「現在ホームページが見られない(?)ので、明日担当者が見て対応する」と回答された。
とりあえず、ここまでしたら、あとは警察の対応待ちだ。
しかし、翌7/16朝になっても、昼になっても、愛媛県警からの連絡はない。この問題に注目している人たちは、ブログやツイッター等で情報を持ち寄りつつ、「どうか間に合うように、手遅れにならないように」と子どもの病状を案じていた。
午後になっても連絡がないため、私は愛媛県警に電話をかけてみることにした。
- 15:10現在まだ対応検討中。
- 児童虐待として介入可能かどうか結論が出ていない。
- 児童と母親の特定もできていない。
- 医師からも含め問い合わせが相次ぎ、ネットで話題になっていることは把握している。
とのことだった。
命の危険があるとの医師の見解が出ていること、通常の情報開示の手続きを取っていては手遅れになるかもしれないことを伝え、進展があったら連絡してほしいとお願いした。
この件に関する情報は、初めはツイッターやブログでの個別の情報発信が中心だったが、徐々に人が集まるところへの情報の集積がみられたので、私も、ツイッター、上記のlets_skepticさんのブログ、阪大の菊池先生のブログ ホメオパシーによる児童虐待の件[最初に追記あり] の3カ所に、自分の行動や得られた情報を報告することにした。
さて。どうも警察の動きが鈍いような気がする。だとすると、別ルートでの児童の特定を考えた方がよいのではないか。
母親が書いている児童の病歴からは、かなり高度な治療を行う医療機関にかかっていることが推測される。愛媛県で、小児に、そういった治療を行う医療機関の数は限られるのではないか。そちらから調べれば、主治医と児童の特定は可能ではないのか。
まず愛媛県小児科医会への問い合わせを考えた。ウェブサイトはあった。しかし、サイト内に問い合わせ先が見つからない。もしかしたら専用の事務所を持っていないのかもしれないが、せめてメールアドレスを載せるかメールフォームを置くかくらいはすべきではないのか。
しかたないので愛媛県医師会に問い合わせることにした。医師会は開業医の団体なので、今回の件には関係ないかもしれない。児童の主治医が病院勤務医であれば、たぶん医師会の会員ではない。でも、主治医や医療機関を特定できる医師はいるかもしれない。
というわけで、愛媛県医師会に電話した。
はじめ「警察が動いているのなら何もできない」とそっけなく言われたが、児童の治療経過等から、医療機関の特定は難しくないのではと指摘した。
「医療機関が特定できたとしても、情報を公開してくれるかどうか…」
「公開なんかしてくれなくていいんです!どこの誰かなんてわからなくていいんです!主治医の先生がお母さんを説得して治療を受けさせてくれて、子どもの命が助かれば!」
「…そう、ですね…」
もし警察が事態を甘く見ているのなら、児童の命を助けられるのは医師ルートしかないと食い下がり、「検討します」との回答を引き出した。
その後さらに数時間が経過し、動きがないまま三連休に突入してしまうのではないかと危ぶまれるようになった頃、愛媛県警から通報者への連絡が入り始めた。私のところにも20:30頃に愛媛県警から電話がきた。
母親、児童、主治医の特定ができ、連絡を取ったところ、児童は無事だという。
母親が「少し大袈裟に書いたほうが『体験談』に取り上げてもらえるのではないか」と実際よりも大袈裟に書いてしまったのだそうだ。
全国の人に心配をかけてしまって大変申し訳ない、と言っていたという。
火曜日には主治医のところを受診予定とのことだった。
21:30頃には愛媛県警からメールがきた。
通報者殿
警察において、調査した結果、体験談投稿者と連絡が付き、投稿にあるような深刻な病状ではなく、
児童も無事であることが確認できました。
通報ありがとうございました。
愛媛県警察本部 生活安全部 少年課
事態の推移を見守っていた人たちからは「よかった」「ほっとした」という声が相次いだ。それはそうだ。このままでは子どもが一人死んでしまうかもしれないと思って心配していたのだから。
だが、「とりあえず」と付けるのをみな忘れなかった。
子どもの命には別状なかった。それは、いい。
しかし、今回の事件の原因は何一つ解決していないのだ。
現代医学の薬を「毒」扱いし、レメディで何でも治ると思い込ませる、ホメオパシー団体。
子どもの病状の悪化を「好転反応」で片付け、母親にはレメディの投与だけ指示して、結果、子どもが医療を受けることを阻んでいる。
警察から通報者たちへの連絡があったあとになって、掲示板へコメントを追加したが、後出しの言い訳(母親との口裏合わせあり?)としか感じられない。
ホメオパスからも勝手に判断して薬を止めるのはよくないので検査や現状把握のためにも病院に通うことは必要であると言われ、お医者さんとの相性が悪いということであれば、セカンドオピニオンで他のお医者さんに診てもらうのも一つの方法であると前回の相談会でも言われており…
ホメオパシー団体の指示によって子どもが健康被害を受けた、という証拠がなければ、今回の件で警察がホメオパシー団体を検挙することは困難だろう。
また、母親のほうにも問題がある。
「少し大袈裟に書いたほうが『体験談』に取り上げてもらえるのではないか」と実際よりも大袈裟に書いてしまった、という母親の言葉を愛媛県警は伝えてきた。
子どもの健康について相談するときに「症状を大袈裟に書く」というのはおかしいのではないか。
正確な症状を伝えなければ正確な判断ができないというのは常識以前の話だ。
つまり母親は、正確な回答を求めていたのではなく、自分の相談を取り上げてもらうことが目的だったのではないか。
あの「体験談」に取り上げてもらい、偉い(?)先生にアドバイスをもらうことが、母親を始めとするホメオパシー信奉者にとっては一種のステータスになっているのかもしれない。
こう書いたら取り上げてもらえるかも、と子どもの症状をより大袈裟に深刻に表現する母親。
それはもう、子どもの健康を願ってというより、楽しんでやっているようにしか見えない。
重病の子どもを必死に看護する母として、注目されたかったのだろうか。
子どもの点滴に汚水を混入した、代理ミュンヒハウゼン症候群の母親に近いものを感じる。
子どもの健康よりも、自分の気持ちを優先する。そういう行動を取る母親だ。たとえホメオパシーにはまっていなかったとしても、別の形で虐待を行っていた可能性がある。
この母親に対しては、今後虐待を繰り返さないよう、地域の児童相談所を始め、関係各機関による働きかけや見守りが必要だろう。
翌日、愛媛県警に、お礼のメールを書いた。
愛媛県警察本部 生活安全部 少年課御中
腎臓病の児童の件について通報させていただきました○○です。
ご回答ありがとうございました。
児童は無事であるとのこと、ほっとしました。
素早い対応をしていただき、どうもありがとうございました。
今回の件は、幸い、命に関わるような問題ではなかったようですが、薬の投与が必要とされている児童に対し、母親が服薬を中断させ、ホメオパシーのレメディを与え、結果、児童の病状が悪化した、ということそのものは、事実なのですよね。
命に別状がなくとも、その行為は虐待であると思います。
その母親に対しては、同じことを繰り返さないよう、医療機関、児童相談所、保健所、学校等、関係諸機関で連携しての働きかけや見守りが必要であると思います。
もし同じことを繰り返すようであれば、再度警察が介入して母子分離を行う必要があるかもしれません。
また、母親がそのような行動に至った原因であると思われるホメオパシーの指導をしている団体についても、違法性はないのか、社会的に危険な団体ではないのか等、司法による調査が必要ではないかと思います。
今回のことは、たまたま命に別状がなかったというだけで、決して空騒ぎなどではありません。
今も、別の場所で別の児童が、必要な医療を受けられずにいる可能性もあります。
どうか些細な問題と考えず、今後とも児童の安全を守っていただけますようお願いいたします。
【まとめ】
初めて、虐待の通報をした。
命に関わる状況だと思ったので、子どもが無事だという連絡が入るまで気が気ではなかった。
子どもが、保護してくれるはずの相手に傷つけられるのは、もうたくさんだ。
私は元被虐待児なので、児童虐待問題について、普通の人よりは少し詳しい。
今回、迷わず警察に通報したのも、理由がある。
通常、児童虐待の通報先としては、児童相談所と言われている。
それは間違ってはいないのだが、今回の場合、母親と児童の所在が「愛媛県」以外不明だった。
これでは、児童相談所は、動きようがない。
児童相談所には、ホメオパシー団体に、即時母親と児童の所在を公開させるだけの権限はない。
それができるのは、警察だ。
だから私は、警察に通報したのだ。
児童相談所には、児童虐待に十分対応できるだけの権限も、人手も、能力も不足しているという。
だから私たちは、時によっては警察に通報し、学校や保育園に通報し、政治に訴えていかなくてはならない。
また、児童相談所の役割は、虐待されている子どもを親から引き離すことだけではない。虐待してしまうことに悩む親の相談に乗ったり、いったん子どもと引き離され、治療を受けた親と子どもが再び一緒に暮らすための手助けをしたりもする。親と対立することと、親を支援することを、同じ場所で同じ人々が行っているのだ。苦悩もあるという。このままのシステムでよいのかどうか、検討も必要だ。
虐待を通報したこと(虐待が起こっていること)を公開することについて、「偽善ではないのか」「チェーンメールと同じことをしたのではないか」と居心地の悪い思いをしている人もいるようだ。
私は、全然そんなこと思わなかったし、今でも思っていない。
私が通報を公開したのは、虐待の情報を私に流してくれた人への礼儀でもあると思うし、同じ情報を受け取って心配している人へのメッセージでもある。自分が聞いたこと、取った行動などの一次情報を発信するよう心がけた。まだ虐待を見たり、通報した経験の無い人の参考になるようにという思いもあった。
ネットで事態が発覚して、広まって、通報が相次ぎ、警察が動いて事態が収拾した、という事件の特異性も、「居心地の悪い思い」には影響しているのかもしれない。通常の虐待の発覚や通報は、目に見えるところで行われるものだから。会ったこともない人に「通報しました」と報告しようなんて、思わないだろう。
通報の数が増えたら児童相談所や警察が動くのかどうかは疑問。深刻な事態であると認識されれば、一本の通報だけでも動くのではないかと思う。誰かがすでに通報したあとであれば、通報を控えるか、メールやFAXなど通報先の人手を直接塞がない方法を取った方がよいと思う。
虐待の通報について、私が知っていることをいくつか書いておこうと思う。
- 通報は匿名でもできる
- 実際に虐待を確認できなくても、疑わしい段階で通報してよい
- どの家で虐待が行われているか、厳密に特定できていなくてもよい
- 家の外に子どもを閉め出すのも虐待であり通報対象
- 緊急度が高く、強制的な介入が必要と思われる場合は警察に通報
- 子どもは親をかばって嘘をつくことがある
- 虐待を見逃して後悔するより、早め早めの通報を
【児童虐待関連サイト】
厚生労働省:平成19年度全国児童相談所一覧
社会福祉法人子どもの虐待防止センター
NPO法人CAPセンター・JAPAN
NPO法人チャイルドライン支援センター
NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク
最近のコメント